病院が多い県ほど住民は健康なのか 都道府県データで確かめる
📰 ・ 2026-08-28
先に結論を書いておく
「病院が多い県ほど住民は健康なのか」という問いに、病院数の統計だけで答えることはできない。理由は単純で、病院数は**施設をいくつ数えたか**を示す数字であり、そこに住む人がどれだけ健康かを示す数字ではないからだ。両者は別々の統計から来ており、同じ表の中に並んでいるわけでもない。
ただし「答えられない」で終わらせると、読者の手元には何も残らない。ここでは、厚生労働省の「病院報告」に載っている都道府県別の病院数を実際に確認しながら、この問いに答えようとするときに何が足りないのか、どこを補えば比較らしい比較になるのかを順に整理する。
手元にある数字を確認する
まず、確認できた数値を並べる。いずれも「病院報告」(厚生労働省)による2024年6月末現在の病院数である。
| 都道府県 | 病院数(2024年6月末現在) |
| --- | --- |
| 北海道 | 524施設 |
| 埼玉県 | 340施設 |
| 茨城県 | 170施設 |
| 宮城県 | 134施設 |
この4つを見ただけでも、数字が3〜4倍の幅で開いていることが分かる。ここで「北海道は病院が多いから健康なのだろうか」と考えたくなるが、その前に確かめるべきことが三つある。
確かめること1:この数字の分母は何もそろっていない
表に並んでいるのは、施設数の実数である。人口で割ってもいないし、面積で割ってもいない。つまり、人口が多い県は病院数も多くなりやすく、面積が広い県は地域ごとに施設を配置する必要から数が積み上がりやすい。実数のままの並びは、「医療がどれだけ行き届いているか」ではなく、県の大きさの並びに近づいてしまう。
同じ問いを扱うなら、少なくとも「住民1人あたり」「一定面積あたり」といった分母をそろえたうえで比べる必要がある。分母をそろえない比較は、比較の形をしているだけで、中身は県の規模の再確認になりやすい。
確かめること2:病院という単位は大きさを問わない
e-Statで公開されている表の名称は「病院数(6月末現在),病床規模・都道府県別」であり、病床規模という区分が併記されている(2024年1月〜12月期の表、2023年1月〜12月期の表など)。ここが重要な点で、病院は**病床規模がまちまちなまま、1施設として1つと数えられる**。
小規模な病院が10施設ある県と、大規模な病院が5施設ある県では、施設数だけを見れば前者が「2倍多い」ことになる。しかし、受け入れられる患者の数や診療の内容は、施設数だけでは分からない。同じ統計の中に病床規模の区分が用意されているのは、施設数という一つの数字では足りないことを、統計そのものが示しているとも読める。
さらに、「1日平均在院患者数・1日平均外来患者数・病院数(6月末現在),病床規模・都道府県別」(2021年1月〜12月期)のように、患者数と施設数が同じ表に収められているものもある。施設の数と、そこで実際に受け止められている患者の量は、別の欄として管理されている。
確かめること3:「健康」を測る数字はこの統計には入っていない
病院報告の都道府県別表に入っているのは施設や患者に関する数値であり、住民の健康状態を直接示す指標ではない。健康を測ろうとするなら、別の統計を持ってくることになる。その時点で、調査の対象・調査時点・集計単位が病院数の表とは異なる可能性が出てくるため、単純に横に並べて相関を語ることはできない。
加えて、仮に病院数と何らかの健康指標に見かけの関係が出たとしても、向きの解釈は一通りではない。医療の必要が大きい地域だから施設が置かれている、という順序も成り立つ。数字が並んだだけで因果を読み取らない、という姿勢が要る。
読み方の手順に落とす
| 手順 | 見るところ | つまずきやすい点 |
| --- | --- | --- |
| 1 | 表の名称と時点 | 「6月末現在」の断面か、年次の系列かで意味が変わる |
| 2 | 分母 | 実数のままか、人口や面積で割ったものか |
| 3 | 集計の区分 | 病床規模別の内訳を見ずに施設数だけで語っていないか |
| 4 | 他統計との接続 | 健康側の指標は別出典・別時点であることを明示しているか |
なお、年次の推移を追いたい場合は「病院数,年次・都道府県別」という別系統の表がある。ただしこれは2011年から2016年にかけて公開された古い系統の表であり、直近の断面を示すものではない。いま現在の状況を見たいなら、2024年1月〜12月期の「病院数(6月末現在),病床規模・都道府県別」を使い、年次系列のほうは過去の推移を確認する用途に限る、という使い分けになる。断面の1時点だけを見て多い少ないを論じるより、同じ県の時系列を追うほうが、その県で何が起きているかは読み取りやすい。
まとめ
題の問いに正面から答えるなら、こうなる。**病院数の統計は、その問いに答えるようには作られていない。** 2024年6月末現在の北海道524施設、埼玉県340施設、茨城県170施設、宮城県134施設という数字は事実だが、そこから住民の健康度を引き出す道筋は、この表の中には用意されていない。
この問いを追いかけるなら、分母をそろえ、病床規模の内訳を開き、健康側の指標は出典と時点を明記して別枠で扱う。加えて、使っている表が最新の断面なのか、それとも公開年の古い系統の表なのかも、そのつど確かめる。遠回りに見えるが、県ごとの数字を意味のある形で比べるには、この手順を省けない。
出典
- 病院報告(厚生労働省)「病院数(6月末現在),病床規模・都道府県別」202401-202412 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0004045427
- 病院報告(厚生労働省)「病院数(6月末現在),病床規模・都道府県別」202301-202312 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0004029062
- 病院報告(厚生労働省)「1日平均在院患者数・1日平均外来患者数・病院数(6月末現在),病床規模・都道府県別」202101-202112 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0004019995
- 病院報告(厚生労働省)「病院数,年次・都道府県別」 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003027787
- 病院報告(厚生労働省)「病院数,年次・都道府県別」 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003070554
- 病院報告(厚生労働省)「病院数,年次・都道府県別」 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003027788
- 病院報告(厚生労働省)「病院数,年次・都道府県別」 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003078929
- 病院報告(厚生労働省)「病院数,年次・都道府県別」 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003091817
- 病院報告(厚生労働省)「病院数,年次・都道府県別」 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003104288
- 病院報告(厚生労働省)「病院数,年次・都道府県別」 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003122998
- 病院報告(厚生労働省)「病院数,年次・都道府県別」201501-201512 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003155360
- 病院報告(厚生労働省)「病院数,年次・都道府県別」201601-201612 https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0001455698